前回の記事では、連鎖重合の代表格である「ラジカル重合」について解説しました。ラジカル(不対電子)という暴れん坊が、次々とモノマーを飲み込んでいくダイナミックな反応でしたね。
前回に記事についてはこちらからご覧ください。
今回は、同じ連鎖重合の仲間である「カチオン重合」について解説します。
ラジカル重合の主役が「ぼっちの電子」だったのに対し、カチオン重合の主役は「プラスの電荷(カチオン)」です。主役が変わると、反応の進み方や、重合できるモノマーの種類、そして「鎖の止まり方」が劇的に変化します。
カチオン重合の主役と、選ばれしモノマー
カチオン重合の起点(活性種)となるのは、プラスの電荷を持った炭素、すなわちカルボカチオン($C^+$)です。
プラスの電荷を持っているということは、「電子が足りなくて飢えている状態」です。そのため、カチオンは「電子を豊富に持っている場所」を強烈に攻撃します。
どんなモノマーがカチオン重合できる?(超重要!)
ラジカル重合は比較的どんな二重結合でも反応できましたが、カチオン重合ができるモノマーは限られています。
カチオン(電子が欲しい)が攻撃しやすいように、「二重結合に電子を送り込んでくれるグループ(電子供与性基)」を持っているモノマーでなければなりません。
【代表的なモノマーと電子供与性基】
- イソブチレン(メチル基が電子を押し出す) $\rightarrow$ タイヤなどに使われるブチルゴムの原料
- ビニルエーテル類(酸素原子が電子を送り込む)
- スチレン(ベンゼン環が電子を供給する ※ラジカル重合もカチオン重合も可能)
カチオン重合のメカニズム(3つのステップ)
それでは、カチオン重合がどのように進むのか、「開始」「成長」「停止(連鎖移動)」のステップを見ていきましょう。
ステップ①:開始反応(プロトンの攻撃)
カチオン重合をスタートさせるには、プラスの電荷(カチオン)を生み出す必要があります。ここで使われるのが酸触媒です。
強力なルイス酸($BF_3$ や $TiCl_4$ など)と、微量の水($H_2O$)などの共触媒を組み合わせることで、強力なプロトン($H^+$)を発生させます。
このプロトン($H^+$)が、モノマーの二重結合の電子を奪い取って結合し、モノマーの端っこにプラスの電荷(カルボカチオン)を誕生させます。
$$H^+ + CH_2=CH(R) \rightarrow CH_3-C^+H(R)$$
ステップ②:成長反応(猛スピードで伸びる!)
端っこがカチオンになったモノマーは、すぐ隣にある別のモノマーの電子豊富な二重結合を攻撃して繋がります。すると、今度は新しく繋がったモノマーの端っこがカチオンになります。
$$\sim C^+ + CH_2=CH(R) \rightarrow \sim C-C-C^+$$
カチオン重合の成長スピードは、ラジカル重合と比べても桁違いに速いのが特徴です。一瞬にして巨大な高分子に成長します。
ステップ③:停止反応・連鎖移動(ラジカルとの決定的な違い!)
ここがラジカル重合との最大の違いです。
ラジカル重合の停止反応は、「ラジカル同士がぶつかって手を繋ぐ(再結合)」でしたね。
しかし、カチオン重合では、成長中の鎖の先端はどちらも「プラスの電荷」を持っています。プラスとプラスは磁石と同じで反発し合うため、2つの鎖がぶつかって停止することは絶対にありません(二分子停止がない)。
では、どうやって成長が止まるのでしょうか?
主に以下の2つのパターン(連鎖移動)が起きます。
- 対イオン(マイナスのイオン)との反応:触媒から生まれたマイナスのイオン(カウンターアニオン)がカチオンにくっついて中和され、成長が止まります。
- プロトン($H^+$)の放出(モノマーへの連鎖移動):カチオンが隣の炭素から水素原子($H^+$)を切り離して二重結合を作り、自分は安定化して成長を止めます。そして、切り離された $H^+$ がまた新しいモノマーを攻撃し、新しい鎖の成長をスタートさせます。
なぜカチオン重合は「超低温」で行うのか?
カチオン重合を工場などで行う際、$-80^\circ C$といった極めて低い温度(超低温)で行われることがよくあります。なぜでしょうか?
それは、カルボカチオンが不安定すぎて、室温だと先ほど説明した「連鎖移動(プロトンの放出)」や様々な副反応が起きやすくなってしまうからです。
連鎖移動が頻発すると、鎖が長く成長する前にバトンタッチが起きてしまい、ドロドロの低分子(短い鎖)しかできません。
立派なプラスチックやゴムにするための巨大な高分子(高分子量)を得るためには、超低温にしてカチオンの暴走(連鎖移動)を抑え込み、ひたすら成長反応だけを進めさせる必要があるのです。
まとめ:ラジカル重合との比較
最後に「ラジカル重合」と「カチオン重合」の比較表です。
| 比較項目 | ラジカル重合 | カチオン重合 |
| 活性種(主役) | ラジカル(不対電子) | カルボカチオン(プラス電荷) |
| 得意なモノマー | 比較的何でも | 電子供与性基を持つもの |
| 開始剤 | 過酸化物、アゾ化合物など | ルイス酸 + 共触媒(水など) |
| 停止反応 | ラジカル同士の衝突(再結合など) | カチオン同士の反発により衝突なし(連鎖移動メイン) |
| 温度のセオリー | 加熱して開始剤を割る | 超低温にして連鎖移動を抑える |
いかがでしたか?
「電子が足りないから、電子をくれるモノマーが好き」「プラス同士だからぶつかって停止できない」というカチオンの性質を理解すれば、丸暗記しなくてもスラスラと違いを説明できるようになりますよ!



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