高分子材料が「何℃まで耐えられるか(熱安定性)」、そして「何がどれくらい混ざっているか(組成分析)」を評価する際、最も信頼される手法がTGA(Thermogravimetric Analysis:熱重量測定)です。
DSC(熱の流れ)では見えなかった「物質の消失」を数値化する、TGAの深い世界を解説します。
TGAの基本原理:ミクロの天秤
TGAの仕組みはシンプルです。試料を加熱しながら、その「重さの変化」を連続的に記録します。
高分子の場合、加熱によって分子鎖が切断され(熱分解)、低分子量のガスとなって揮発します。この時、天秤が「軽くなった量」を測定することで、分解の進行度合いを把握します。
グラフ(TG/DTG曲線)の読み方
TGAの測定結果には、通常2種類の曲線が表示されます。

- TG曲線(熱重量曲線):縦軸に重量(%)、横軸に温度をとります。階段状に重さが減っていく様子から、分解のステップを確認します。
- DTG曲線(微分熱重量曲線):TG曲線を時間(または温度)で微分したものです。「いつ、最も激しく重さが減ったか」を山のピークで示します。
実務のポイント:
複数の成分(例:ゴムとプラスチックのブレンド)が混ざっている場合、TG曲線ではなだらかに見えても、DTG曲線を見ることで「2つの異なるピーク」として分離でき、それぞれの成分の分解温度を特定しやすくなります。
「雰囲気ガス」を操り、成分を暴く
TGAの真骨頂は、測定中に流すガス(雰囲気)を切り替える「成分定量」にあります。
窒素($N_2$)雰囲気:純粋な熱分解
酸素がない状態で加熱し、ポリマー主鎖が熱だけでどれくらい壊れるかを測ります。
空気(Air/ $O_2$)雰囲気:酸化分解・燃焼
酸素存在下で加熱し、酸化のしやすさや、カーボンブラックなどが燃え尽きる挙動を測ります。
実践!複合材料のレシピ解析
例えば、タイヤや強化プラスチックなどの「中身」を調べたい場合、以下のようなステップで測定を行います。
- 窒素下で加熱(常温~600℃):可塑剤(オイル)やポリマー成分が分解して消失します。
- 600℃で保持し、空気に切り替え:窒素下では残っていた「カーボンブラック(着色剤・補強材)」が、酸素と反応して燃え尽きます。
- 最後に残ったもの(残渣):ガラス繊維(GF)やシリカ、炭酸カルシウムなどの無機充填剤(フィラー)です。
このステップにより、「ポリマー:カーボン:フィラー = 60:10:30」といった正確な配合比率がわかります。
耐熱性の指標「$T_{d5}$」とは?
カタログスペックでよく目にする$T_{d5}$(5%重量減少温度)。これは、元の重さから5%軽くなった時点の温度を指します。
高分子は1%でも分解が始まると物性が大きく変わるため、この$T_{d5}$や$T_{d10}$が、実質的な「使用限界温度」の目安として使われます。
まとめ:高分子分析の「最後のピース」
- FT-IR:どんな「顔(官能基)」をしているか。
- DSC:どんな「性格(溶ける・固まる)」か。
- TGA:どれくらいの「スタミナ(耐熱性・成分比)」があるか。
これら3つを組み合わせることで、材料の履歴から寿命予測、さらには競合他社製品の分析(リバースエンジニアリング)までが可能になります。

コメント