私たちの身の回りにあるレジ袋(ポリエチレン)や発泡スチロール(ポリスチレン)などのプラスチックは、「連鎖重合」という仕組みで作られています。
連鎖重合には「付加重合」,「開環重合」,「連鎖縮合重合」という3つの重合様式があります。
この3つの重合様式は反応活性種の種類によって「ラジカル重合」,「カチオン重合」,「アニオン重合」に分けられます。
今回は、連鎖重合の中でも最も一般的な「ラジカル重合」について仮設していきます。
逐次重合が「みんなで少しずつ手を繋ぐ」おしとやかな反応だったのに対し、ラジカル重合は「1つの起点からドミノ倒しのように猛スピードで連鎖する」非常にダイナミックな反応です。
逐次重合についてはこちらの記事で解説しています。
今回は、このラジカル重合のメカニズムを「開始」「成長」「連鎖移動」「停止」の4つのステップに分けて、分かりやすく徹底解説します!
主役は「ラジカル」!非常に不安定な暴れん坊
メカニズムに入る前に、主役であるラジカルについて知っておきましょう。
化学結合は通常、2つの電子(電子対)で安定に手を繋いでいます。しかし、何らかの理由でペアを持たない「ぼっちの電子(不対電子)」を持ってしまった状態の分子や原子を「ラジカル」と呼びます。記号では右上に黒丸をつけて $R\cdot$ のように表します。
ラジカルは「早くペアを見つけて安定したい!」と非常に不安定で、他の分子を強烈に攻撃する性質を持っています。この暴れん坊の性質を利用して、モノマーを次々と繋げていくのがラジカル重合です。
ステップ①:開始反応(Initiation)
まずは、反応の起点となる最初のラジカルを発生させ、最初のモノマーを攻撃するステップです。
- ラジカルの発生:重合をスタートさせるために開始剤(AIBNやBPOなどが有名です)を入れ、熱や光を当てます。すると、開始剤の分子($I$)がパカッと半分に割れて、2つのラジカル($R\cdot$)が誕生します。$$I \rightarrow 2R\cdot$$
- モノマーへの攻撃:生まれたラジカル $R\cdot$ は、モノマー($M$)の二重結合($C=C$)を攻撃します。二重結合の1本を無理やり引きちぎって自分と結合し、余った1つの電子をモノマーの反対側に押し出します。結果として、モノマーの端っこが新しいラジカル($RM\cdot$)になります。$$R\cdot + M \rightarrow RM\cdot$$
ステップ②:成長反応(Propagation)
ここからがラジカル重合の真骨頂です。
端っこがラジカルになったモノマー($RM\cdot$)は、すぐ隣にある別のモノマーの二重結合を攻撃して繋がります。すると、また新しく繋がったモノマーの端っこがラジカルになります。
これを繰り返すことで、ラジカルが常に鎖の先端(成長末端)に移動しながら、凄まじいスピードでモノマーを飲み込んでいきます。
$$RM_n\cdot + M \rightarrow RM_{n+1}\cdot$$
この成長反応は非常に速く、1つの鎖が成長を始めてから終わるまで、わずか数分の1秒〜数秒しかかかりません。反応開始直後から、一気に巨大な高分子ができあがります。
ステップ③:連鎖移動(Chain Transfer)
成長中の鎖(ラジカル)には、「そのまま伸び続ける」か「死ぬ(停止する)」かの他に、第3の運命とも言える非常に重要な現象が起こります。それが連鎖移動です。
猛烈なスピードで成長しているラジカル($RM_n\cdot$)は、時として周囲にある別の分子(溶媒、未反応のモノマー、あるいは連鎖移動剤など:$S-H$)にぶつかり、そこから無理やり水素原子などを奪い取ってしまうことがあります。
- 水素を奪い取った元の鎖は、ペアができて安定化し、成長がストップ(死んだポリマーに)します。
- しかし、水素を奪われた可哀想な分子は、今度は自分が不対電子を持つことになり、新しいラジカル($S\cdot$)として生まれ変わります。そして、その新しいラジカルが別のモノマーを攻撃し、新しい鎖の成長を始めます。
$$RM_n\cdot + S-H \rightarrow RM_n-H + S\cdot$$
連鎖移動のポイントと「分子量制御」
連鎖移動の最大の特徴は、「反応容器内のラジカルの『総数』は減らない(反応は続く)のに、個々のポリマーの『長さ』は短くなる」という点です。
これをリレーに例えると、走っていたランナー(成長中の鎖)が突然コース上の観客にバトンを無理やり押し付け、自分はリタイアして、観客が新しいランナーとして走り出すような現象です。
実際の工場では、この性質を逆手に取り、わざと水素を奪われやすい物質(連鎖移動剤)を少しだけ添加することで、プラスチックの分子量が大きくなりすぎるのを防ぎ、加工しやすい長さにコントロールしています。
ステップ④:停止反応(Termination)
バトンを渡し続ける連鎖移動とは異なり、ラジカルそのものが完全に消滅し、重合が完全にストップするステップが停止反応です。
これには大きく2つのパターンがあります。
パターンA:再結合(Recombination)
成長中の2つの鎖の先端(ラジカル)同士が真正面からぶつかり、お互いの不対電子を出し合って、しっかりと手を繋ぎ1つのさらに長い鎖になるパターンです。
$$RM_n\cdot + \cdot M_mR \rightarrow RM_{n+m}R$$
パターンB:不均化(Disproportionation)
2つの鎖がぶつかった際、片方のラジカルがもう片方の鎖の末端から「水素原子」を奪い取って安定化するパターンです。
水素を奪われた方は、余った電子を使って末端に二重結合を作ります。結果として、2つの死んだポリマー(一方は末端が単結合、もう一方は二重結合)ができます。
$$RM_n\cdot + \cdot M_mR \rightarrow RM_n-H + RM_m(-H)$$
どちらのパターンでも、ラジカル(不対電子)がペアになって消滅するため、これ以上反応が進むことはありません。(これを死んだポリマー:Dead Polymerと呼びます)
まとめ
ラジカル重合の全体像は、以下の4つのステップで構成されています。
- 開始: 開始剤が割れてラジカルが生まれ、最初のモノマーを攻撃する。
- 成長: ラジカルが先端に移動しながら、次々とモノマーを飲み込み巨大化する。
- 連鎖移動: 他の分子から水素を奪い、自分は停止する代わりに新しいラジカルを生み出す。(分子量を下げる)
- 停止: ラジカル同士がぶつかり(再結合 or 不均化)、ラジカルが完全に消滅して反応が終わる。
「ラジカルが生まれてから死ぬまでのストーリー」として流れを追うと、複雑な化学式もスッと頭に入ってくるはずです。


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