私たちの身の回りには、ペットボトル、スマホのケース、衣服の繊維など、「高分子(ポリマー)」で作られた製品があふれています。現代社会はまさに高分子なしでは成り立ちません。
しかし、人類がイチから高分子を合成できるようになったのは、実はここ100年ちょっとの出来事なのです。
今回は、人類がどのようにして「巨大な分子」を作り出す技術を手に入れたのか、その熱い歴史と偉大な科学者たちのドラマをざっくりと解説していきます!
天然のものを「改造」していた時代(19世紀)
人類は最初からプラスチックを作れたわけではありません。大昔から、木綿(セルロース)や絹(タンパク質)といった「自然界に最初からある高分子(天然高分子)」を利用していました。
19世紀になると、この天然高分子を「少しだけ化学的に改造して使いやすくする」技術が生まれます。
- 1839年:ゴムの加硫(グッドイヤー) ベタベタして使いにくかった天然ゴムに「硫黄」を混ぜて加熱すると、弾力があって丈夫なゴムになることが発見されました。車のタイヤなどに繋がる大発明です。

- 1870年頃:セルロイドの誕生(ハイアット) 植物の成分(セルロース)を薬品で処理して作られた、世界初の「半合成プラスチック」です。ビリヤードの球や、昔の映画のフィルムなどに使われました。
しかし、これらはあくまで「天然のものを加工しただけ」であり、分子をイチから組み立てたわけではありませんでした。
「巨大な分子なんて存在しない!」常識との戦い(1920年代)
20世紀初頭まで、世界中の偉い化学者たちはこう信じていました。「分子量が何万もあるような巨大な分子(高分子)なんて、存在するはずがない。小さな分子が物理的に集まって固まっているだけだ」と。
この常識に真っ向から立ち向かったのが、ドイツの化学者ヘルマン・シュタウディンガーです。

1920年、彼は「高分子とは、小さな分子が共有結合で何千何万と長く繋がった、1つの巨大な分子である」という高分子説を提唱しました。 最初は学会で大バッシングを受け、「君は間違っている」と冷笑されましたが、彼は粘り強い実験で証拠を提示し続けました。やがて彼の説が正しいことが証明され、彼は後にノーベル化学賞を受賞します。
このシュタウディンガーの執念こそが、現代の「高分子化学」の本当の幕開けとなりました。
完全な人工高分子の誕生!カロザースと「ナイロン」(1930年代)
「高分子が長く繋がった鎖であるなら、人間の手でその鎖を繋ぎ合わせることができるはずだ!」
そう考えたのが、アメリカのデュポン社で研究をしていた天才化学者、ウォーレス・カロザースです。彼は、小さな分子(モノマー)を化学反応によって次々と繋ぎ合わせる「重合(じゅうごう)」の研究に没頭しました。

そして1935年、ついに歴史的な大発明が生まれます。世界初の完全な合成繊維、「ナイロン(Nylon 66)」の誕生です。

「クモの糸より細く、鋼鉄より強い」というキャッチコピーで発売されたナイロン製のストッキングは、世界中で爆発的な大ヒットを記録しました。ここから、人類が石油から自由自在にプラスチックを作り出す「合成高分子の時代」が一気に加速していきます。
思い通りに形を作る!チーグラー・ナッタ触媒の革命(1950年代)
プラスチックを合成できるようにはなりましたが、初期の合成方法は「超高圧・高温」という激しい条件が必要で、しかも分子の並び方がバラバラになってしまうという弱点がありました。
この問題を鮮やかに解決したのが、ドイツのチーグラー(左)とイタリアのナッタ(右)という2人の化学者です。


1950年代、彼らは特定の金属を組み合わせた「チーグラー・ナッタ触媒」を開発しました。この魔法のような触媒を使うと、以下のことが可能になりました。
- 常温・常圧に近い穏やかな条件で重合できる
- 分子の鎖が向く「方向(立体規則性)」を綺麗に揃えられる
分子の並びが綺麗に揃うと、プラスチックはより頑丈になり、熱にも強くなります。現在私たちが毎日使っているレジ袋やタッパー(ポリエチレンやポリプロピレン)は、彼らの発明のおかげで安く大量に作れるようになったのです。もちろん、この2人もノーベル化学賞を受賞しています。
日本人の大発見と、これからの高分子(現代〜未来)
プラスチックの歴史は今も進化し続けています。
「プラスチック=電気を通さない」というのが常識でしたが、2000年に日本の白川英樹博士らが「電気を通すプラスチック(導電性高分子)」を発見し、ノーベル化学賞を受賞しました。これは現在のスマートフォンのタッチパネルなどに欠かせない技術です。

出典:文部科学省ホームページ(CC BY 4.0 ライセンスに基づき利用)
さらに現在、応用化学の最前線では、環境問題(マイクロプラスチック問題など)を解決するために、「自然界で水と二酸化炭素に分解されるプラスチック(生分解性プラスチック)」や、植物由来の原料を使ったエコな高分子の合成方法が世界中で研究されています。
まとめ
- 19世紀: 天然のものを加工して使う時代(セルロイドなど)
- 1920年代: シュタウディンガーが「高分子」の概念を証明
- 1930年代: カロザースが初の完全人工高分子「ナイロン」を発明
- 1950年代: チーグラー・ナッタ触媒で、自由自在で安価な合成が可能に
- 現在: 導電性高分子や、環境に優しいエコな高分子の開発へ
「高分子」という存在が認められてから、まだたったの100年。その短い期間で、化学者たちの探求心が私たちの生活をここまで豊かにしてくれました。
日々の勉強で複雑な重合の反応式や計算問題と格闘している時も、「この反応式には、先人たちのどんなドラマが隠されているんだろう?」と歴史に思いを馳せてみると、少しだけ化学が面白く見えてくるかもしれませんね!

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