前回の記事では、2種類のモノマーを混ぜたときの「好み(同族嫌悪か、仲間意識か)」を表すモノマー反応性比($r_1, r_2$)について解説しました。
今回は、その $r_1$ と $r_2$ の値を使って「じゃあ、フラスコにモノマーAとBを『3:7』で混ぜて重合させたら、できあがるポリマーの中身は何対何になるの?」という実用的な疑問に答えるためのツール、「共重合組成曲線」について解説します。
グラフの意味をマスターして、共重合を完全攻略しましょう!
共重合組成曲線とは?(縦軸と横軸の意味)
まずは、グラフの縦軸と横軸が何を表しているのかを正確に理解しましょう。ここが一番重要です。

- 横軸($f_1$):仕込み組成(フラスコの中の割合)実験の最初に、あなたがフラスコに入れたモノマー全体のなかで、モノマー1($M_1$)が占めるモル分率(割合)です。0から1(0%〜100%)までの値をとります。
- 縦軸($F_1$):ポリマー中の組成(できあがった割合)重合反応によってできあがった共重合体の中に、モノマー1($M_1$)がどれくらいの割合で組み込まれたかを示すモル分率です。
つまり、共重合組成曲線とは「〇〇%の割合でモノマーを混ぜたら(横軸)、△△%の割合で組み込まれたポリマーができた(縦軸)」という関係を可視化したグラフです。
魔法の数式「Mayo-Lewisの式(共重合組成式)」
共重合において、フラスコ内のモノマーの割合と、できあがるポリマーの中身の割合の関係を、前回の記事で学んだ $r_1, r_2$ を使って導き出したのがMayo-Lewis式(共重合組成式)です。
教科書などでよく見る本来のMayo-Lewis式は、フラスコ内のモノマー濃度($[M_1], [M_2]$)と、ポリマーに組み込まれていく速度の比($d[M_1]/d[M_2]$)を使って、次のように表されます。
$$\frac{d[M_1]}{d[M_2]} = \frac{[M_1]}{[M_2]} \cdot \frac{r_1[M_1] + [M_2]}{r_2[M_2] + [M_1]}$$
さらに、この式をグラフに描くために、「横軸(仕込みモル分率 $f_1(=\frac{[M_1]}{[M_1]+[M_2]})$)」と「縦軸(ポリマー中のモル分率 $F_1(=\frac{d[M_1]}{d[M_1]+d[M_2]})$)」の関係に書き換えると、次のようになります。
$$F_1 = \frac{r_1 f_1^2 + f_1 f_2}{r_1 f_1^2 + 2f_1 f_2 + r_2 f_2^2}$$
(※ $f_2$ はモノマー2の仕込みモル分率なので、$f_2 = 1 – f_1$ です。)
式を見ると少しウッとなるかもしれませんが、丸暗記する必要はありません。ここで大切なのは、「できあがるポリマーの割合($F_1$)は、仕込んだ割合($f_1$)と、モノマーの反応性比($r_1, r_2$)だけで完全に決まる」という事実です。
$r_1, r_2$ で変わる!代表的な3つのグラフの形
前回の記事で学んだ $r_1, r_2$ の値によって、このグラフは劇的に形を変えます。共重合組成曲線の3つのパターンを見ていきましょう。
パターン①:理想共重合(ランダム)の場合
条件:$r_1 \approx 1, r_2 \approx 1$

モノマーにえり好みがなく、どちらも適当に食べるパターンです。
この場合、グラフは原点から右上へ真っ直ぐ伸びる直線(対角線)になります。つまり、$f_1 = F_1$ です。
「30%の割合で仕込んだら、ポリマーの中身も30%になる」という、非常に素直で分かりやすい関係です。
パターン②:完全な交互共重合の場合
条件:$r_1 \approx 0, r_2 \approx 0$

「自分と同じ相手とは絶対に繋がらない!」という同族嫌悪のパターンです。
この場合、あなたがフラスコに $M_1$ を10%しか入れなくても、90%入れても、できあがるポリマーは必ず「-1-2-1-2-1-2-」と交互に繋がるため、$M_1$ の割合は常に「50%($F_1 = 0.5$)」になります。
そのため、グラフは横軸がどんな値でも、縦軸は常に0.5になる水平な直線(両端を除く)になります。
パターン③:一般的な非理想共重合(S字カーブ)
条件:$r_1 < 1, r_2 < 1$ (※多くの共重合はこのパターン)

どちらのモノマーも「自分より、相手の方が少し好き」という状態です。
このときのグラフは、対角線をまたぐような「S字カーブ」を描きます。
最重要キーワード「アゼオトロープ組成(共沸組成)」とは?
上記のパターン③(S字カーブ)のグラフを見ると、カーブが対角線(直線のグラフ)と交わっているポイントが1箇所あります。ここをアゼオトロープ組成(共沸組成)と呼びます。

なぜアゼオトロープ組成が重要なのか?(組成ドリフトの害)
通常、共重合をスタートさせると、反応しやすい方のモノマーが先にどんどん消費されていきます。すると、フラスコ内の「仕込み割合($f_1$)」が時間とともに刻々と変化してしまいます。結果として、重合の初期と末期で、できあがるポリマーの割合(中身)が全く違うものになってしまうのです。これを「組成ドリフト」と呼びます。
しかし!もしグラフが対角線と交わる「共沸組成」の割合で、最初にモノマーを仕込んだらどうなるでしょうか? この点では $f_1 = F_1$、つまり「フラスコ内の割合」と「できあがるポリマーの割合」が完全に一致します。
消費される割合と残っている割合が同じなので、反応が進んでもフラスコ内のモノマーの比率は最後まで一切変わりません。組成ドリフトが起きず、「最初から最後まで、均一な品質の共重合体」を作ることができるのです。工場で高品質なプラスチックを大量生産する上で、このアゼオトロープ組成を見つけることは極めて重要なテクニックです。
まとめ:グラフを描いて理解を深めよう
共重合組成曲線のポイントをまとめます。
- 横軸は「仕込み割合」、縦軸は「ポリマーの割合」。
- $r_1 = 1, r_2 = 1$ なら真っ直ぐな直線。
- $r_1 = 0, r_2 = 0$ なら0.5で横ばいの直線。
- $r_1 < 1, r_2 < 1$ のS字カーブが対角線と交わる点が「共沸点」。
- 共沸組成で仕込めば、最初から最後まで均一なポリマーができる!
数式やグラフが出てくると難しく感じますが、「自分ならどうやって狙ったプラスチックを工場で作るだろうか?」と技術者の目線に立つと、Mayo-Lewis式や共沸点のありがたみがよく分かりますよ!

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